音のする方へふらりと

やっと今週が終わり
足早に電車に乗り込んだ

昨日の暖かさが嘘のような
冷たい風と小雨

心のなかで舌打ちする
風ふかないでよ

すぐに家に帰りたい訳ではないのに
ここではないどこかに逃げたくなる

疲れた

座れることはないとわかっている、満員電車
心を無にして、どこも見ないでスマホを見つめる
スマホ見ながら柱につかまり
役に立たない情報をスクロール

目の前には左手薬指に指輪をつけた
若い女性がだるそうにスマホをいじってる

みんなそんな感じ

無のまま、透明人間になったつもりで
なにも考えずスマホをみて
最寄り駅につく

改札までの人混みがまた心をイラつかせる

早く進め

それでも、無表情を装い列に従い
他人を気にせず足早に改札を出る

早く家に入りたい

そう思った瞬間、ロータリーに人混みが見えた

丸くなって何か音のする方に
人が集まっている

何やらjazzが流れている

狭い柱の前のスペースにわたしも吸い込まれる

力強いパーカッションやサックスの音が
ロータリーに響いている

普段は物産展とかやってる
こんなちんけなイベントスペースで
音楽ライブがあるんだ

普段なら立ち止まらない私の足が
その音の方向に向かい立ち止まる

なんだか気持ちがよかった
寒くて帰りたいはずなのに
なんか楽しい
リズムに乗りたい自分の気持ちに
ドキドキした

周りをみると改札を出る人は
興味津々に集まり
音の周りを囲んでいる
お年寄りやら子どもやらままさんやら
サラリーマンやら私やら酔っぱらいやら

それなのになぜかみんな無表情

サックス
キーボード
ギター
パーカッション

4人の演奏者だけが自然にリズムを重ね
音を合せて気持ち良さそうにしている

ものすごく格好よかった
顔とかではなく。
顔も格好よかったけど
佇まいと楽しんでるその雰囲気が
すごく格好よかった

演奏はもちろん、すばらしく
なにより演奏者は
誰一人照れていなかった

仕事だろうが楽しんでいた
すごくうらやましかった

夕方18時を過ぎようとしていた

いつもならイライラしか感じないこの駅
通り過ぎるだけのこの駅

雨だろうが、寒かろうが、人が溢れようが
関係なく、家に帰ろうとする人たちの
足を止めて、耳を引き留めて、
イライラする私達の心を鷲掴みにして
魅力していた

力強いパーカッションとサックスに
胸が高鳴り自然とリズムを体でとりたくなる

無表情で聴いて見ている若いサラリーマン

きっと、音楽が聴こえ感動したから
何かを感じたからその場に立ち止まった
のだと思う

4人の演奏者の向こう側では
小さな女の子と男の子がジッと演奏を聴き
真剣に彼らを見ていた

時間とともに笑いながらはしゃぎ
音楽に合せて小さく踊っていた

それを愛おしそうに見つめるお母さん

一番前で見ていた珈琲片手に
ベージュのヒールでリズムをとるOLさん

なにこれ、みんな幸せそう

すごく素敵な時間を知らない人たちと
共有出来たことが嬉しかった

途中、カーペンターズ
close to youが流れた

くちずさむでしょ。これ

曲の合間には波音のようなキーボードと
パーカッションのセッションや
バックミュージックが
流れた

なんなのこの人たち。。
かっこよすぎる

毎日通り過ぎるだけのこの場所が
このときだけ
ほんとうに特別な時間に変わった

魔法がかかったみたいだった
何かが、流れた

アンコールがどこからか聴こえた

最初に演奏したテーマ曲が演奏された

3年演奏していて初めてのアンコールだと
イベント主催者が言っていた

こんなに素晴らしいのに。

聴かせようとせずに、自然体で
普通の街に溶け込み
人を惹き寄せる音を奏でる

日本じゃないみたいだった

自分たちのもてるもの
好きなものを自然に表現して
人に伝えて
こんなホッコリキラキラした気持ちに、
させてくれるなんて

人生楽しいだろうな

アンコールが終わって名残惜しさいっぱいで
ドーナツ買って家に帰った

感動しながら共有する人生

素敵すぎる

音楽はやっぱりすごい

あんなふうに生きたい